栄誉を手にする『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介監督
今年のカンヌ映画祭、日本作品に初の脚本賞がもたらされ、
ちょっとは予想してはいましたが、開催が一年空いてしまったあとの2年ぶりの映画祭からの、嬉しいニュースとなりました。
感動の瞬間に立ち会うことができて
こんな時代にわざわざフランスに渡り、
毎日毎日PCRを受けたりしながらも参加した甲斐が大いにありました!
脚本賞、といっても下馬評が高く、
毎日現地で印刷される雑誌のカンヌ号外の星取りで、
一番ポイントが高かったこともあり、
みんな期待していました。
ただ・・・
1回前の2019年のパルムドールが韓国の『パラサイト』で、
その前の2018年が是枝裕和監督の『万引き家族』。
それでまたアジアに最高賞ということはないかな、とも思っていましたけれど。
地理的なバランスとして。
濱口竜介監督は、前作『寝ても覚めても』でもカンヌに出品していましたし、
その時もオフィシャルフォトグラファーを担当させていただいたので、
何年かかけて、こうして上り詰める姿を応援させていただきました。
出発前に、日本で『ドライブ・マイ・カー』の試写に行かせていただきましたが、
確かに3時間という長い尺も全く気にならないくらい、
展開の面白さがあり、監督の才能を垣間見させられる作品でしたので
世界中の審査員からの高い評価があったのも納得です。
受賞、心からおめでとうございます。
『
Titane チタン 』(フランス) ジュリア・デュクルノー監督(中心)主演の俳優たちと。
さて、2021年パルムドールはフランス人女性監督の作品『チタン』。
塚本晋也の『鉄男』も彷彿される、交通事故で頭にチタンの板を埋め込まれた少女の物語。
車との間に子供をもうける、という奇怪な設定に審査員は心を掴まれたという。
まだ無名の監督らしく、
受賞の瞬間に、大きく驚いていた姿が印象的でした。
相当斬新で不思議な作品とのこと、
日本公開が待ち遠しいです。
『アネット』のレオス・カラックス監督(左)と主演のマリオン・コティヤール。
そのほか、カンヌの常連であり鬼才のレオス・カラックス(
『ボーイ・ミーツ・ガール』『汚れた血』『ポンヌフの恋人』『ポーラX』)
の新作『 アネット』も監督賞を受賞(でも授賞式は欠席・・・!)。
撮影の合間に、どうにか時間を作って唯一観ることができた作品なのですが、
主演のアダム・ドライバーが好演で
作品の芸術性も非常に刺激的で
わたし的には大満足でした。
今回の審査員長、スパイク・リーの最近の作品にも、
アダム・ドライバーは出演していますね。
フォトコールの時に、二人がすれ違って親しそうに話している姿が見受けられました!
そう、カンヌの面白いところは、
大物と大物が動線上ですれ違い、
当然そこで立ち止まって挨拶したりしている姿が
自然に目にとまるところです。
アダム・ドライバー。
前作の『ホーリー・モーターズ』までのレオスお気に入りの俳優、ドニ・ラヴァンの特殊メイクを駆使しての11の人格に扮する演技もすごかったけれど、
今回初めてレオスと組んだアダムも難しい役を果敢にこなしていて、
この作品がきっかけでアダムに魅了される人もいるはず!
フランスではすでに劇場公開されており、
「胸を打つ崇高な悲劇」
「レオスの最高傑作の一つに数えられる作品」
「美しくブラックなミュージカル作品」などといった評が目に留まりました。
今回のコンペ作品は24作品と、数も多く、
例年通り特別上映、深夜上映、
加えて「カンヌ・プルミエール」という名の新たな部門も設け、
カンヌ的に目の離せない監督の作品(他の映画祭に取られたくないから、欲張りな事情という話も耳にしました・・・!)も集まったので、
その層の厚みでも世界三大映画祭の中でも群を抜いてトップに立っているような印象。
「カンヌ・プルミエール」セクションには細田守監督『竜とそばかすの姫』が出品。
世界中の粒ぞろいの作品が集まり、社会的な事情にも負けない気概に大きな感銘を受けた映画祭でした!
バカンス客が街中に溢れて混み合う、なかなか苦しい7月の開催でしたが
来年は、また5月に開催されることでしょう。
白い砂浜が映えるクロワゼット通り沿いのビーチ
*** 2021年カンヌ映画祭受賞結果 ***
【パルムドール】
『Titane チタン 』(フランス) ジュリア・デュクルノー監督
【グランプリ】(2作品)
『A Hero ヒーロー 』(イラン) アスガー・ファルハディ監督
『Hytti Nro 6(英題:Compartment No. 6)コンパートメントNo.6』(フィンランド) ユホ・クオスマネン監督
【監督賞】
『Annette アネット』(フランス) レオス・カラックス監督
【審査員賞】
『Ha’berech(英題:Ahed’s Knee)アヘッズ・ニー』(イスラエル)ナダヴ・ラピド監督
『Memoria メモリア』(タイ)アピチャッポン・ウィーラセタクン監督
【脚本賞】
濱口竜介、大江崇允
『ドライブ・マイ・カー』(日本)濱口竜介監督
【男優賞】
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
『Nitram ニトラム』(オーストラリア)ジャスティン・カーゼル監督
【女優賞】
レナーテ・ラインスヴェ
『The Worst Person in the World ワースト・パーソン・イン・ザ・ワールド』(ノルウェー)ヨアキム・トリアー監督
All pictures (c) Kazuko Wakayama