今年のカンヌ映画祭は、参加した誰にとっても、とにかくものすごい速度で日々が進行し、
あっという間に最終日を迎えました。
なぜこんなにも目まぐるしかったかというと、おそらくそれはもともとが華々しい作品が多く追いかけなくてはならなかったということに加えて、それは日本の作品が3作品も大きい部門に出品されたということ、そしてそれぞれの作品に最大限のキャストがこの地を訪れたということに尽きます。
こちらは日本作品では三本目のヴィム・ヴェンダースの『PERFECT DAYS』の赤絨毯
ヴィム・ヴェンダース監督の作品は、わたしにとって原点とも言えるので、今回のこの映画祭でのオフィシャル撮影をとても楽しみにしていました。
まだわたしがフォトグラファーになるずっと前に『都会のアリス』というモノクロ作品や『ベルリン天使の詩』を観て、そのときからずっと「目に見えないけれど存在するもの」や「些細かもしれないけれどもしかしたら一番大切なこと」について考察を巡らせ、
それを抱えていまでも生きているつもりなのですが、
そのまさにヴェンダース監督が、今回『パーフェクト・デイズ』で役所広司さんを主役に、東京を描いている。
それは日本社会を描いた映画史に君臨している小津安二郎の作品にももちろん繋がっていて、
今の東京をヴェンダースがどんなふうに見つめたか、という視点が大変に興味深いのです。
この作品の主人公、平山は、好きなものに囲まれて、好きな音楽を聴いて、好きな本を読んで暮らす。
一人だけれど一人じゃない。
ときに木々の木漏れ日や、日常の小さなものが映し出される。
ドキュメンタリーの手法でフィクションの映画が撮られていく。
しみじみと、ヴェンダース監督の視点の率直さと、その類まれで確かな感性、そして役所さんの表情の美しさ。
ああ、ほんとうに、こんな作品に関われたことをこころから感謝しました。
そして、この作品は最終日、見事に主演男優賞をもらいました。
こういうひっそりとした映画の、確かな存在感にきちんと価値を見出すことのできる映画祭は、
やはりすごい。
こちらが今年の審査員。
真ん中のリューベン・オストリュンドが今年の審査員長で『逆転のトライアングル』でカンヌのパルムドールに輝いている監督。人間関係を面白おかしく、痛切に描いた快作。
『怪物』で脚本賞を受賞した是枝監督。
是枝監督もまた、カンヌで常連というだけではなく、すでに4度目の受賞という快挙。
この人がすごいのは、いつもほかのひとよりも一歩前に進んでいること。
今回の作品では「世界は変われるか」ということをずっとテーマに考えながら作ったそう。本当にすばらしい。
楽屋入り口。
ここから毎日、わたしたちカメラマンは入ったり出たりします。
授賞式が終わり、全てを配信し終わってパレからでたところで大きな音がして空を見上げると花火!
今年も感動をたくさんもらいました。
赤絨毯にいるとき、いつも思うのですが、写真を撮っている時にこの映画祭が感動的なのは一緒に音楽があるから。
赤絨毯で流れる音楽は、登場する人物やストーリーに合わせて念入りにセレクトされているのです。
今日は、是枝監督が受賞式前にレッドカーペットに登場する直前に、「戦場のメリークリスマス」が流され、
それは明らかに坂本龍一さんへのオマージュだったので胸がいっぱいになりました。
目の前に繰り広げられることに感動しながら写真を撮る、それは体の隅々までしあわせを感じるので精一杯に今をいきることにつながる。
そのように今年の映画祭に参加できたこと、ほんとうに感謝です。
【2023受賞作品】
パルムドール
『Anatomy of a Fall』ジュスティーヌ・トリエ 監督
グランプリ
『The Zone of Interest』ジョナサン・グレイザー監督
監督賞
トラン・アン・ユン『The Pot-au-Feu』
審査員賞
『Fallen Leaves』アキ・カウリスマキ監督
脚本賞
坂元裕二『怪物』(是枝裕和監督)
女優賞
メルヴェ・ディズダル『About Dry Grasses』(ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督)
男優賞
役所広司『Perfect Days』(ヴィム・ヴェンダース監督)
text written by Kazuko Wakayama
all photos (c) Kazuko Wakayama 写真の無断転載禁止